明神平山行記録
時間表記は当日のメモ/GPSログによる


文責/撮影

頓知亭


行 程
2006/12/某日

一日目
08:30 大又バス停
09:04 七滝八壺
10:14 登山口積雪あり
12:45 明神平

二日目
06:30 起床
09:50 明神平
12:14 七滝八壺
12:50 大又バス停

試みに三人称にて筆を執る。
 彼は年末に大学時代の同級生と奈良の明神平から高見山への縦走を計画していた。その計画は予想を越えた積雪に阻まれ途中で引き返すことになるのだが、それは別の話として今回はその下見山行の記録である。彼は下見として、とりあえず明神平で一泊してみることにした。

一日目(晴天)
08:30 大又バス停
09:04 七滝八壺
10:14 登山口積雪あり
12:45 明神平

 近鉄電車に乗りバスに乗り換え、8:15頃に大又に降りる。遠方には目指すべき台高の稜線が谷間にのぞいている。稜線はうっすらと・・・ではなくはっきりと白雪が被さり、下見の目論見が見事に外れたことを彼に告げていた。下見のつもりで来ているのにすでにしっかりと雪がある。そのことに彼は不安を覚えつつも、一早い冬の到来に喜びを味わっていた。
 同じバス停に降りたのは彼ともう一人単独の青年だった。青年は防寒装備を身にまとうべくルックザックを下ろし、荷を解いていた。彼には雪道になるのはまだ先と思われたので上着代わりに雨具の上だけを羽織り、青年に一声かけて先行することにした。8:30。明神平で一泊する予定だったので今日はそれなりに装備が重い。また鍛え方も足りなかったのだろう、先ほどの青年には登山口のだいぶ手前で追い抜かれてしまった。9:04七滝八壺、看板の説明を読むが滝の全容を見る余裕はなく、林道を先に進む。駐車場として使われているらしい広場を越え、工事現場の直ぐ先に登山口はあった。10:14。この時点で積雪は10cm程度はあっただろうか。幸いにもトレースが氷化している様子はない。スパッツだけ着けてそのまま進むことにした。最初こそ歩きやすい道であるが、沢沿いのコースだけに基本的に道は細く所々軽く崩れていた。補助ロープや丸太などがかけられているものの恐がりの彼は何度かの渡渉にはずいぶんと気を遣った。それにもまして雪を踏む感触とその白世界に浸る快楽は彼にとっては他では得がたいものがあった。
 沢沿いのコースは明神平が近づくにつれ徐々に急となり、九十九折りの斜面をゆっくりと登っていく。
 登り切ると突然広いところに出た。12:45。明神平であることは分かっていたのだが急に雪原が現われたのに彼はまたまた表情をほころばせた。彼は雪原などのただ広くて静かなところに目がないのだった。快晴の青と雪の白がいかにも眩しい。来て良かったと思った。一方、スキーを持ってこなかった事には後悔していた。どちらにしろ、彼の腕前でさらに登山靴という条件ではほとんど滑走を愉しむのはまず無理な相談だったのだが。
 風がかなりででいた。今日はここで幕営の予定だったが、うまく設営できるかどうか。明神平には小屋が二つと東屋がある。風よけになるかどうか彼は建物を調べてみることにした。東屋はまったく風よけにならないことが見て取れる。彼はまず天理大(付属高校?)の小屋に向かった。もちろん施錠されていているがテラスには何とかテントを収められるかも知れない。多少は風が防げそうだがそれでもかなり吹き込んでくる。次にあしび山荘(こちらも非公開である)に向かう。積雪は深いところで50cmくらいか。こちらは裏手が林になっていて小屋との間ならば風は弱い。
 しばらく雪原をウロウロしていると2人組の青年が水無山のほうから下ってきた。大学のワンゲルという彼らはどうやらここまで縦走してきたらしい。聞いてみると深いところで膝下くらいのラッセルでずいぶん疲れたといっている。嘘であろう。かれらはどこをどう見ても精気にあふれていた。そして軽快な足取りのまま下山していった。
 彼は幕営地をこの小屋の裏手と定めた。今日が生まれて初めての雪上露営になるとは全く思っていなかった上、今のところ幕営装備の登山者も見かけない。多少心細い思いをしつつも何とかテントを建てている最中に団体の登山者が、小屋の裏手にやってきて彼に声をかけた。彼らもテント泊との事で少し会話を交わす。
 テントを無事設営し、早速テント内でくつろぐ。彼の体はまだ十分に暖かかったのでマットだけ敷いて横になる。少し寒くなってきたもののそのまま昼寝をしてしまった。徐々に零下の空気が彼を冷ましていく。そのまま放っておけば寒気に襲われるのは分かっているのにわざとそのままでいるのが心地よい。目が覚めた頃にはそれでも大分風が出ていた。外に出るには登山靴を履き直さねばならず、億劫だったので、そのまま夕餉をとり就寝することにした。何とはなしに彼と同世代か少し年下らしかったバスで一緒だった青年のことを考えている。滋賀の産で比良山系はかなり歩いているらしい。比良で十分ではないか、わざわざ奈良まで来なくてもよいのではないか。彼には近くの山と言えば六甲であり、そこは比良や台高や大峯に比べれば人擦れしすぎている。そもそも今の緑のほとんどは植林なのだから。否、ぼくは単により遠くにあるというだけであれらの山にあこがれているのだろうか・・・第一ぼくは藪も虫も大の苦手ときているではないか・・・。茫洋とした思索の島々をふらふらと迷い漕ぎつつ彼はついに寝入った。隣のテントでは宴会がその間もずっと盛り上がっていたようだが気にならなかった。風の音に紛れて聞こえぬはずの声が聞こえてきてしまうような夜よりはずっといい。

二日目(曇り)
06:30 起床
09:50 明神平
12:14 七滝八壺
12:50 大又バス停

 6:30彼は目覚めた。テントから顔を出す。曇っていて暗い。軽く吹雪いているようだ。朝食をとりながら彼は今日どうするかを考えた。今日は下見山行だから水無山までは上がってみよう。そしてその先がどのような感じか眺めてみよう。朝食を取り終えた彼はテントをそのままに残し、水無山に向かう。団体は反対の明神岳方面に向かったらしい。普通はそうするものだろう。昨日の二人組のトレースを見ながら登高する。二人の足取りはバラバラで、どうやら横並びで歩いていたものらしい。彼は自分も鍛えてこのくらいの余裕を持って歩きたいものだ、と思った。水無山までは所々露岩があり、スリップに注意しつつ1時間とかからずにたどり着いた。山頂付近は木が生い茂っていてなかなか見通しのいい場所がない上、ガスがのためにはっきり確認できたのは国見山あたりまでだった。本番当日にこんなガスが出ていたら中止にせざるを得ないだろうと考えながらそこを後にした。
 テントを撤収し、下山を開始する。9:50。九十九折りの登山の所々ショートカットされたあとがある。登ってきたときにはなかったのでワンゲルの青年たちのものだろうか。二人別々の所を下っている跡もある。今日の彼は特に疲れているわけでもそれほど急いでいるわけでもないので(むしろバスには早すぎるくらいだ)慎重に夏道を追った。渡渉にはやはり緊張をしたが昨日の今日なのでうまくいった。今度来たときはさらにうまく出来るだろう。
 大又の集落に近づくととある民家に犬が数匹いて、子犬が一匹混じっていた。昨日来た時もそうだったが興味津々かつおそるおそるこちらの様子を伺っているのが何とも可愛らしかった。
 バス停に着いたがバスの時間まで一時間半以上ある。12:50。彼はバスの車庫の中で時間つぶしに雨具などを乾かしたりして過ごしたがここで待っている間が一番寒かったかも知れない。


今回の感想
なかなか良いところであった。今度はスキー靴とスキー板を用意して 訪れてみたい。そして明神岳から檜塚へと歩いてみたいと思う。
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